ねぇ…俺だけを見て?
「━━━━━副社長。こちらが資料です」

「ん。
なぁ…“久しぶりに会って”どうだった?フミ」
豹典から受け取った資料に目を通しながら、意識だけ向けて言った。

「変わってなかったです」

「そう」

「優しさも、柔らかさも、甘さも……あの可愛らしい雰囲気も、全部……史依その物だった……!」

「………」
「……なんですか?」

ずっと、資料を見ていた煜馬。
目線だけ上げ、豹典を見上げた。

「それ…やめてくんない?」

「は?」

「“史依”呼び。
フミは“俺の”嫁。
“奥様”とか、せめて“史依さん”って呼べよ」

「………」

「俺、嫌いなんだ。
そうゆうの。
公私混同ってやつ」

「……それは違うでしょ?」

「は?」

「公私混同が嫌いなのは、わかりました。
でも、今のは単なる“ヤキモチ”ですよね?」

「………お前…」

「四年って短いように感じるでしょうが、その期間の僕達はとっても深かった。
喜びも悲しみ、苦しみも……いつも一緒に乗り越えてきた。
あの四年、本当に色んなことがあったから。
副社長は、僕のさっきの発言にヤキモチ妬いたんですよね?
“変わってない”って言葉一つに。
副社長にしか見せない史依を、僕も知ってることに。
そしてまだ副社長が知らない史依を、僕が知ってることも」

「………フッ…!!」
煜馬が噴き出す。

「なんですか?」

「ヤキモチか!
確かにな!(笑)
でも、お互い様だろ?」

「………」
「君だって、ヤキモチ妬いてるだろ?」

「なっ…!!」

「だよなぁー
政略結婚でお互い気持ちがないはずなのに、愛し合ってるなんて聞かされたら……!
ヤキモチ、妬くよなぁ。
わかるよ!」

「あんた…」

「いいじゃん!お互い、ヤキモチ妬いてる者同士、仲良くしようよ!」

「………」
握手を求めてくる煜馬の手を見つめる、豹典。

「村山!」
「………フッ!
そうですね。よろしくお願いします、副社長!」


仕事が終わり、マンションに帰った煜馬。
「ただいまー!フミー」

「おかえりなさい、煜馬さん!」
パタパタと駆けてくる史依。
煜馬が両手を広げて待っていると、その腕の中に収まるように抱きついた。

「可愛い…可愛いなぁ……」
頬をすり寄せ、キスをするのだった。
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