ねぇ…俺だけを見て?
ドキドキが抑えられないまま、中に入る。
自分の家に入るのに、何故か緊張していた。

「煜馬さん、お弁当買ってくるって言ってたから、とりあえずお茶を用意したよ!
勝手に、キッチンを使ってごめんなさい。
ついでに、何か汁物をって思ったんだけど……」

「あぁ。
冷蔵庫の中、何もなかったろ?」
「うん、お水しか……」

「フミに家のことを任せようと思ってるから、なるべく空の方がいいかなと思って」
「そっか!」

「ほら、食べよ?」
「うん!」
キッチンカウンターに並んで座る。

「「いただきます!」」


「………ん!美味しい~!」
「だろ?
ここ、俺の知り合いが経営してるレストランで、特別に弁当を作ってもらったんだ!」
「え?特別に?」

「あぁ。せっかくなら、美味しいもんを食べさせたいし!
あ、今度、そのレストランも連れてってやるよ」
「うん」

「ん?何?」
「あ、ううん!」

史依は、不思議だった。
“ただの”同居人みたいな関係の自分に、どうしてここまでしてくれるのだろうと━━━━━━

わざわざ知り合いに弁当を作らせ、レストランにも連れていってやるなんて。

食事が終わり、史依の荷物を整理する。
キャリーバッグの他に、段ボールが数個。
「荷物、少ないね」
「あ、そうかな?」

あっという間に整理し、煜馬が史依に婚姻届を渡した。
「後はフミが書くだけだよ」
「うん」
煜馬は既に記入していて、煜馬の父親と史依の父親も証人として記入されていた。

史依は、ペンを取る。
そして記入し始めた。

(手が…震える……)
「フミ?大丈夫?」

「う、うん。
なんか、緊張しちゃって……」
「………」
すると煜馬は、優しく史依の手の上に自身の手を乗せた。

「え?煜馬さん?」

「こんな結婚の仕方……きっとフミは望んでなかったよな?」
「え?」

「ほら。女性って、憧れとかあるだろ?
ロマンチックな夜景の見えるレストランでプロポーズとか、何より愛し合ってするもんだもんな。
俺は、会社の為ならって思って受け入れてるが、フミは━━━━━」
「煜馬さん…私……」

「何の根拠もないけど━━━━━」
ゆっくり煜馬の顔が近づく。
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