『ヒガンバナ』花言葉シリーズ
ヒガンバナ

引っ越しのついでに、いらない物を処分する。ぬいぐるみとか、どう飾ったらよいのか困るようなインテリアの類いを捨てる。

ぬいぐるみは自分で買ったのと人からもらったのがある。自分で買ったそれは友人や元カレと一緒にテーマパークへ遊びに行き、はしゃいだ勢いで買ったものがほどんだ。

家に帰った頃にはテンションも下がっているから、なんでこんな子どもっぽいぬいぐるみを社会人のアラサーの女が買ったのかと戸惑う自分がいた。

もらったほうは元カレからの物ばかり。男という生き物は、世の中のすべての女がぬいぐるみをもらって喜ぶものであると、どうやら思い込んでいるらしい。

全部捨てよう。

処分対象のインテリアは、誰かの結婚式の引き出物とか人からのプレゼントだ。ぜんぜん趣味じゃないのに、せっかくいただいのだからと取っておいた。

捨てよう。

住まいを移るのは初めてじゃない。前回、ここへ引っ越してきた時には彼がいた。でも今回は自分だけだから物が少ないし、それに気が楽だ。

捨てるかどうしようか迷った物がある。部屋の片隅に置いてあるフォークギターだ。もうずいぶん触っていない。

今の会社に就職する前、プロになるのを夢見てストリート演奏をやっていた時期があった。結局、それは夢だけで終わった。

いつも聴いてくれていた子がいたっけ。高校生の男の子だった。せっかく応援してくれたのにごめんと、思い出すたびに心の中で謝っている。

以前、そのギターを売ろうと思い、中古楽器取り扱いショップへ持ち込んだことがある。しかし査定額が予想とあまりにもかけ離れていたので、手放す気が失せてしまった。

弾かないのに持っていても仕方ない。

弦に指が触れて音が鳴った。なんとなくギターを持ち上げ、本当に久しぶりにコードを鳴らしてみる。ずれた音程を自分の指が勝手に調整する。弾いていないのにわたしの指は覚えていた。

こういう時のわたしの判断は決まっている。保留だ。現状維持だ。このギターは持っていく。

処分するのは、大量のぬいぐるみと趣味の合わないインテリアと、そして元カレとの思い出の数々だ。

捨ててやる。捨ててやるとも。


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