Macaron Marriage
* * * *
上野夫妻を見送ってから、再びマネキンを作業部屋へと戻そうと持ち上げた時だった。
背後から急に抱きしめられ、萌音は思わず悲鳴をあげてしまう。しかしクックと笑う声から、それが翔であることに気が付いた。
「翔さん⁈ 突然だとびっくりするんだけど……」
「ごめんごめん。でも驚かせるのには成功したみたいだ」
振り返ってみると、グレーのスーツ姿の翔が立っている。上野夫妻の打ち上げのためにかっちりとしたスーツに身を包んだのだろうか。
「今日はスーツなのね」
「あぁ、ちょっと午前中に面会が入っていたからね。上野たちも来ていたし、ちょうど良かったよ。このマネキン、作業部屋まで運ぼうか?」
「ありがとう。でも仮縫いの状態だから自分で運ぶね」
そして作業部屋にマネキンを運び終えると、翔の方へ向き直る。
「いきなりうちに来ちゃって、お仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。これからディナーでまた会社があるけど、それまでは一応休憩時間。萌音はどう? 今日は誰かが来る予定はある?」
「ううん、今日はないから、そろそろドレスの本縫いに入らないと」
「それは今すぐじゃなくても平気だよね?」
「うん、まぁ……」
少し強引な翔の様子から、彼がこれから自分の休憩に萌音を引き込もうとしているのがわかる。
「……何かあるの?」
「良かったらさ、これからデートしようよ。おやつにうちのシェフの美味しいデザート付きだよ」
「もしかしてゴーフル?」
「正解」
その途端、萌音の表情がキラキラと輝きだす。余程先日食べたゴーフルが美味しかったらしい。
「行く。準備するから待ってて」
萌音は階段を駆け上がって自室に飛び込むと、クローゼットの手前にあったロングスカートに履き替え、コートを羽織った。デートなんて言われてしまうと、なんとなくスカートが履きたくなってしまう。
カバンを持って階下へ降りていくと、玄関のそばで翔と華子が楽しそうにお喋りをしていた。
この二人っていつも楽しそう……萌音は不思議そうに二人を眺める。確かに世話好きな面とか似ているかもしれない。だから気が合うのだろうか。
萌音が降りてきたことに気付くと、二人は笑顔を向けた。
「今夜はどうされるのか伺っていたんです」
近頃は萌音の家で夕食を済ませて泊まることも多いため、華子は日によって二人分の夕食の準備をしてくれていたのだ。
「今夜は仕事で遅いし、萌音の分だけでって話してたんだ。それで良かった」
「うん、大丈夫」
そうか……今夜は一人で寝るんだ……。そう考えると少し寂しくなる。
「じゃあ行こうか」
翔の差し出した手を取ると、
「じゃあ行ってきます」
と華子に告げ、手を繋いで家を後にした。
上野夫妻を見送ってから、再びマネキンを作業部屋へと戻そうと持ち上げた時だった。
背後から急に抱きしめられ、萌音は思わず悲鳴をあげてしまう。しかしクックと笑う声から、それが翔であることに気が付いた。
「翔さん⁈ 突然だとびっくりするんだけど……」
「ごめんごめん。でも驚かせるのには成功したみたいだ」
振り返ってみると、グレーのスーツ姿の翔が立っている。上野夫妻の打ち上げのためにかっちりとしたスーツに身を包んだのだろうか。
「今日はスーツなのね」
「あぁ、ちょっと午前中に面会が入っていたからね。上野たちも来ていたし、ちょうど良かったよ。このマネキン、作業部屋まで運ぼうか?」
「ありがとう。でも仮縫いの状態だから自分で運ぶね」
そして作業部屋にマネキンを運び終えると、翔の方へ向き直る。
「いきなりうちに来ちゃって、お仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。これからディナーでまた会社があるけど、それまでは一応休憩時間。萌音はどう? 今日は誰かが来る予定はある?」
「ううん、今日はないから、そろそろドレスの本縫いに入らないと」
「それは今すぐじゃなくても平気だよね?」
「うん、まぁ……」
少し強引な翔の様子から、彼がこれから自分の休憩に萌音を引き込もうとしているのがわかる。
「……何かあるの?」
「良かったらさ、これからデートしようよ。おやつにうちのシェフの美味しいデザート付きだよ」
「もしかしてゴーフル?」
「正解」
その途端、萌音の表情がキラキラと輝きだす。余程先日食べたゴーフルが美味しかったらしい。
「行く。準備するから待ってて」
萌音は階段を駆け上がって自室に飛び込むと、クローゼットの手前にあったロングスカートに履き替え、コートを羽織った。デートなんて言われてしまうと、なんとなくスカートが履きたくなってしまう。
カバンを持って階下へ降りていくと、玄関のそばで翔と華子が楽しそうにお喋りをしていた。
この二人っていつも楽しそう……萌音は不思議そうに二人を眺める。確かに世話好きな面とか似ているかもしれない。だから気が合うのだろうか。
萌音が降りてきたことに気付くと、二人は笑顔を向けた。
「今夜はどうされるのか伺っていたんです」
近頃は萌音の家で夕食を済ませて泊まることも多いため、華子は日によって二人分の夕食の準備をしてくれていたのだ。
「今夜は仕事で遅いし、萌音の分だけでって話してたんだ。それで良かった」
「うん、大丈夫」
そうか……今夜は一人で寝るんだ……。そう考えると少し寂しくなる。
「じゃあ行こうか」
翔の差し出した手を取ると、
「じゃあ行ってきます」
と華子に告げ、手を繋いで家を後にした。