Macaron Marriage
* * * *

 翔は萌音の部屋のドアをノックしてから、ゆっくりと押し開ける。部屋の中はカーテンが閉じたまま真っ暗で、空気はひんやりと冷えていた。

 ベッドでは萌音が布団もかけずに、昨日会った姿で眠りについている。まるで泣き疲れて眠ってしまった子どものように丸くなったまま、小さく肩を揺らしている。

 どうしようか悩んだ末、翔は窓辺に近寄ってカーテンを静かに開けた。明るい日差しが部屋いっぱいに広がり、鬱蒼とした空気が晴れるようだった。

 それと同時に萌音が布団に包まりモゾモゾと動き出す。翔はエアコンのスイッチを入れ、萌音が眠るベッドへと腰を下ろした。

 彼女の髪をそっと撫でてから頬に触れると、乾いた涙の筋がしっかりと見えた。元基の言っていた通りになっちゃったな……萌音をこんなふうに悲しませたのは俺の責任だ。

 その時に萌音がうっすらと目を開け、ぼんやりとした瞳で翔を捉える。

「翔さん……?」

 寝ぼけ眼のまま不思議そうに翔を見つめていた。それから徐々に意識がはっきりとしてきたのか、目を見開き青ざめた顔に変わっていく。

「えっ、な、何でいるの⁈」
「ん? んー……ほら、昨日の夜は一緒にいられなかったし、せっかくなら朝から会いたいなって思ってさ」

 萌音は両手で顔を押さえて、どうやら化粧を落とし忘れた顔を隠そうとする。それから昨日と同じ服であることに気付き、風呂にも入らずに寝てしまった自分の体を必死に隠そうとする。

「い、今はダメ!」
「じゃあシャワー浴びてくる? 一緒に入ってもいいけど」
「一人で入ってくるから待ってて!」
「なんだ残念。じゃあ素直にここで待ってるよ」

 恥ずかしそうに部屋を飛び出していった萌音を笑顔で見送ると、翔は彼女が寝ていたベッドに横になる。

 萌音の香に鼻腔をくすぐられ、変な気分になりかける。そういえば昨日のままということは、萌音の体には昨日の名残が残っていたということだろうか……そう思うとシャワーを浴びてしまうのが少し残念な気もした。

 俺ってばもっといろいろ反省すべきなのに、萌音に対して欲望を隠せないんだ。

 翔はそっと目を閉じる。萌音が戻ってきたら何から話せばいいだろうか……そう考えている間に、部屋のドアが開く音が聞こえた。
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