Macaron Marriage
 理性が抑えられなくなった自分に反省し、一息ついてから萌音の下着を元の状態に戻す。

「ごめん……」
「ううん、大丈夫。とりあえず服を着ていい?」
「もちろん」

 萌音は目の前に掛かっていたベージュのワンピースを着ると、背中のジッパーに手を掛けたので、翔はその手に自分の手を重ねて代わりに閉めた。

「ありがとう」
「うん、どういたしまして」

 すると萌音は翔の手を自分の腹部へと誘導したため、翔は萌音をそっと抱きしめる。

「……あのね……実は昨日、父がここに来たの」
「うん、さっき華子さんから聞いた」
「……そっか……」

 それから萌音は翔の腕の中で向きを変え、彼の胸にもたれかかる。

「私ね……翔さんと付き合うことが出来てすごく幸せだった。でも同時にもう戻れないところまで来ちゃったことに気付いたの……。こんなに翔さんが好きなのに、別れるなんてしたくないよ……」
「萌音……」

 突然しくしくと泣き始めた萌音の髪を撫でながら、翔は申し訳ない気持ちになって全てを打ち明けようとしたが、萌音の言葉によって遮られてしまう。

「……また逃げちゃおうかな……」

 また逃げる……それは今まで萌音が結婚が迫るたびにしてきたことだった。確かに今までならそれで済んだかもしれない。だけど、今回もそれをしてしまえば何の解決にもならないことは目に見えている。

「それはダメだよ」
「……どうして……?」

 そう、今まで萌音を自由にしてきたの池上社長だけじゃない、俺も同じなんだ。それにちゃんとハッピーエンドにするって約束したじゃないか。

 翔は意を決したように萌音の肩を掴むと、真っ直ぐに彼女の顔を見据える。

「今から行こう。そしてちゃんとしよう」
「えっ……それってどういう……」

 萌音が言いかけたところで、タイミングよく彼女のお腹が鳴る。

「今華子さんが朝食を作ってくれてるから、食べたらすぐに出発するよ。いいかい?」

 そう言うなり翔は萌音の手を引いて部屋を出ると、急いで階段を降りていく。萌音は瞳を(しばた)きながら、意味がわからないまま朝食を食べると、すぐさま翔の車に乗り込んだ。
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