Macaron Marriage

3 まさかの再会

 別荘での生活を始めてニ週間ほど経った頃、フランスで使っていた服や小物、そして作り溜めていたドレスなど、たくさんの荷物が届いた。

 元々実家に帰るつもりはなかったため、生活する場所が決まったら送ってもらうように頼んでいたものだった。ようやくドレスが手元に届き、仕事を始める準備が整いつつあった。

 萌音は別荘の一階部分をお客様対応の部屋として改装を始めた。家具を移動させたり、これまでに作ってきたドレスをレンタルとして貸し出すためにハンガーラックに並べた。セットでの貸し出しにするため、必要な小物類は棚を作って見えるように置いていく。

「萌音さ〜ん! こっちの部屋の片付けも終わりましたよ」

 父親が雇った家政婦の華子に呼ばれ、萌音は隣の部屋へと急ぐ。元々は客間だった部屋だが、これを機に萌音の作業部屋に変わる予定だ。

 部屋の中には窓から明るい日差しが差し込み、萌音の心は踊り始める。こんな場所でドレスが作れるだなんて嬉し過ぎる。

 ホームページの作成も知り合いに頼んであるし、あとは注文していた生地やレースが届くのを待つだけ。

 とはいえ、まだ何も始まっていない。お客様が来てくれたわけじゃないし、平坦な道じゃないことはわかってる。ここだって両親の別荘だし、華子さんのお給料もパパが払ってくれている。まだまだ甘えているのは十分わかっていた。

 それでもようやく自分の足で立てたような気がして、前向きな気持ちになれたのも事実。とりあえず今は出来ることをやろう。ダメなことがあればその都度直していけばいい。今は前に進むだけ。

「だいぶ仕事部屋らしくなってきましたねぇ」

 小柄でおかっぱ、今時珍しく割烹着を着てメガネをかけた六十代後半の華子は、汗を手で拭いながら満足げな笑みを浮かべる。

「本当……。華子さん、ありがとうございます」

 萌音は窓を開くと、外の空気を胸いっぱいに吸い込み、気合いを入れるかのように大きく頷いた。

 その時、目の前の塀を見ながら昔の記憶が呼び起こされる。そこは小さい頃にロミオが腰掛けて、様々な話を萌音に聞かせてくれた場所だった。

 彼は元気にしてるかしら。私の初めてのキスの思い出。そして未来への背中を押してくれた人。いつまでも彼の姿が消えることはない。
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