Macaron Marriage
知らない人と話したらいけない……母親からそう言われていたこともあって、萌音は口を閉ざしてすぐに部屋に入ろうとする。
「あっ、ちょっと待ってよ! 大丈夫、僕はここから動かないからさ。少しだけお喋りしない?」
恐る恐る振り返った萌音は、再び窓のそばへと歩いていく。少年のような声だし、話し方もどこか子どもっぽい。同じ年くらいだろうか……暗さでみえないため、想像するしかなかった。
「……絶対にそこから動かないって約束出来ますか?」
「あぁ、戻ってきてくれた! もちろん、約束するよ。じゃあお喋りに付き合ってくれるの?」
「……少しだけ。もう寝る時間だから」
何故かはわからないけど、その少年が笑っているような気がした。
「名前って聞いてもいい?」
「……嫌です」
「ふーん、君しっかりしてるね。じゃああだ名で呼ぼう。何か好きなものってある?」
「……モネの睡蓮っていう絵が好き」
それは画家の名前が同じだからと、母親が見せてくれた画集に載っていたものだった。
「へぇ、意外。うん、僕も好きだな。じゃあモネちゃん? それとも睡蓮だから、スイちゃんとか?」
少年の口から提案されたあだ名に、萌音の心がざわめいた。まさか本名を当てられると思っていなかったし、スイちゃんなんて可愛いあだ名を与えられたことに胸がときめいた。