Macaron Marriage
「ちなみにこれはどういう依頼なんですか?」

 マネキンが着ているドレスを指差しながら、翔は萌音に尋ねた。

「このドレスを持ち込んだ新婦さん、大学の卒業旅行でアメリカに行ったらしいんです。その時にあまりの安さにびっくりして、予定もないのに買っちゃったって言ってました」
「確かに向こうは買うのが主流ですからね」
「そうなんです。でも結婚が決まってからようやくクローゼットから出してみたら、思ったよりも可愛いくなかったらしく、だけどあるのに借りるのもなぁと思っていた時に、うちのサイトをみつけてくれたそうなんです」

 萌音は机の引き出しを開け、中から一枚の写真を取り出す。そこにはこのドレスのリメイク前の状態が映し出されていた。

「へぇ……このドレスがこうなるんだ……」
「新婦さんのイメージと、新婦さんの好きなものを組み合わせて。あとは予算かな。同じデザインでも、選ぶ素材によって値段も変わってきますからね。私はなるべく誰にでも手が出しやすい物を提供したいんです」
「なるほど……なんだかとても萌音さんらしい意見ですね。すごく共感出来ます。でも生地とかも高いんじゃないんですか?」
「実は工場から直接購入させてもらっているので、普通に購入するより安いんです」
「工場から?」
「いろいろな工場に自分から連絡をしたり、通い詰めたり。結構大変でしたけど、今は皆さんすごく良くしてくださるから助かってます」

 翔は驚いたように口を閉ざしてから、プッと吹き出した。

「さすが萌音さん。すごい行動力だ」
「そ、そうですか⁈ 私なんかより翔さんの方がずっとすごいです。私は翔さんに背中を押してもらえてようやく動き出せたようなものですから……」

 一瞬の沈黙が訪れる。しんみりしてしまった空気を打ち破ろうとしてあたりを見渡した萌音は、自室から机の上に移動させておいた小箱を見つけて飛びついた。
< 47 / 130 >

この作品をシェア

pagetop