放課後の音楽室で
「上田くんが悪いわけじゃないよ。そういう日だったんだよ」

佐久間の笑い飛ばすような笑顔が、逆に俺の胸をぎゅっと締め付ける。

「どうぞ。美味しいよ?」

俺の前に、規則正しく並べられてクッキーを差し出す佐久間。

すぐに、新田さんがレモンティーを淹れたものを持ってきてくれた。

「新田さん、ありがとうございます。佐久間も」

佐久間は、俺の向かいに座って、同じように新田さんが入れてくれたレモンティーを飲む。

「ふふっ。上田くん、今日、私の両親帰ってきてないって知って、驚いたでしょ」

えっ…

まさかその事が話題に上がるなんて思っても見なくて、俺はクッキーに伸ばしてた手を止めた。

「あっ、クッキー食べながらで」

佐久間は、ふふふっとまた笑うと、クッキーを一枚手に取った。

俺も伸ばしかけてた腕を伸ばして、クッキー1枚を手にとった。

「本当に私の命に関わるようなことがない限り、帰ってこないと思う」

「そんな…命に関わる事じゃなくても、帰ってくるよ」

そう言ったけど、すぐに佐久間は首を横に振った。

「1人娘だけど、私のことは可愛くないと思う。難しいことばっかり言うめんどくさい娘のままよ」

内容とは正反対の表情で、佐久間はクスッと笑う。

「…佐久間は面倒臭さくなんてないよ」

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