放課後の音楽室で
「上田くんは、昔から優しいね」

「そんなんじゃないけど…」

「ううん。優しいよ。優しすぎて、たまに心配になる」

「え?」

佐久間は、ふふっとだけ笑うとクッキーを一口食べた。

そして、レモンティーを飲むと言葉をつづけた。

「上田くんは、ちゃんと甘えてる?」

「いや…男だし…それはちょっと…」

男子高校生が甘えるってあんまり考えないんじゃないか?

「それ言ったら、佐久間だって…」

「私は、新田さんにいっぱい甘えてる」

そうはっきり言い切った佐久間は、広々としたキッチンで夕食の準備をしている新田さんに視線を向けた。

「…そうだな。佐久間にとって新田さんってそう言う存在だったな」

佐久間の気持ちを察して、俺はそう言ってもう一枚クッキーを手に取った。

佐久間は親に甘えない分、新田さんに絶大な信頼をおき、心を許して甘えている。

本当はこういうこと言っちゃダメだけど、両親よりも自分自身を曝け出していると思う。

「新田さんがいなくなったら、私潰れちゃうかも」

冗談っぽく、ふふっと笑った佐久間だけど、おそらく本心だったんだと思う。

「このクッキー、うまいね」

あえて、話題を変えた。きっと佐久間は俺の下手くそな気遣いに気がついたんだと思う。

ニコッと笑って、

「でしょ?」

と言った。

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