放課後の音楽室で
佐久間が、そっと俺の右手を両手で包み込む。

「やっと、恋人同士だね」

ふふっと笑う佐久間がすごく可愛くて、俺の心臓の音が大きくなる。

「うん。佐久間は、今日から俺の彼女」

「じゃあ、上田くんは私の彼氏」

恥ずかしそうににこっと微笑む佐久間に、今度はきゅんっとする。

「上田くん、この後、時間ある?」

「うん。今日はもう予定ないよ」

「実はね、お父さんが上田くんと話がしたいって。今日は家にいるの」

えっ…佐久間のお父さんが?

急な展開に結構動揺するけれど、どっちみちちゃんと話さないといけないことだよな。

「分かった。このまま帰りに寄ってもいいの?」

「うん。あと…実はお母さんもいるの」

「そうなの?」

俺、お母さんに会ったことないな。確か有名な服のブランドの社長だったような…。

「帰りながら、お母さんの話してもいい?」

ちょっと気まずそうな佐久間に、俺は頷く。

ほっとした表情の佐久間を見て、そういえば、お母さんとの関係もちょっとうまく行ってないことを思い出した。

距離感が難しいんだったかな?











「私ね、今のお母さんの気持ち、あまりよくわからないの。嫌われてるのか、そうではないのか」

靴を履きながら、淡々と話し出す佐久間。俺は、ただ静かに佐久間の話に耳を傾けた。



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