放課後の音楽室で
「お母さんとは年に1、2回会うくらい。あとは、ずーっと会社の最上階の部屋で暮らしてるから」

そうなのか。つまり、お父さんともそんなに会ってないってことなのか?

「でもね、帰ってくる時は、ちゃんと手料理作ってくれるの。私、そのお料理すごく好きなの。でも、お礼言ってもぎこちなさはあるまま」

そう言って笑った佐久間だけど、悲しげな笑顔は隠しきれていない。

「…お母さんが、許婚の件をどう思っているかも分からないの」

話を聞きながら、佐久間とお母さんはこれまできっと一緒にいる時間が短すぎたんだと感じた。

料理作ってくれるのは、きっとお母さんなりの一つの愛情表現。

反応がぎこちないのは、どこか遠慮してるから。

「佐久間は…お母さんとどんな関係でいたい?」

「えっ…」

俺の質問に、佐久間は少し考え込んだ。

「…正直、分からないの」

「そっか。じゃあ、きっと佐久間のお母さんも同じだよ」

「…同じ?」

「うん…。だから、今日、ちょっと話してみたら?正直にどんな関係がいいのか分からないって…」

そう言うと、佐久間は驚いた表情で俺を見た。

「直接?」

「うん。もし1人じゃ不安だったら俺も居るし…」

そう言うと、佐久間は頷いて歩き始めた。そっと佐久間の左手が隣を歩く俺の右手と触れた。

そのまま手を繋ぎ、佐久間の体温を感じながら佐久間の家へと向かった。



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