放課後の音楽室で
「…すまなかった」

えっ…

佐久間のお父さんと顔を合わせた直後、驚くことに、佐久間のお父さんの謝罪の言葉から会話が始まった。

「きゅ…急にどうしたの?」

隣にいた佐久間も驚いてそう声をかけた。

「威圧的な態度をとってしまって申し訳なかったと思っている。娘の幸せを考えたら、君の言う通りだったと今は思っているよ」

以前会った時とは違う優しい表情の佐久間のお父さんに、拍子抜けしてしまう。

「…じゃあ…許婚の件は…」

「さっき、断りの電話を入れたよ。向こうもいい歳だから、それなりの相手もいたようでね。向こうも安心した様子だったよ」

つまり、相手の人は恋人がいたってことか。お互い良かったってことなのか。

「同じ大学のようだし…娘のこと、よろしく頼むよ」

「は、はい」

話があっさり進みすぎて、俺も佐久間もいまいち実感がわかない。

これまでの緊張は一体…。

そんなことを考えていると、キッチンで紅茶を入れてくれていた新田さんが、テーブルの上にカップをそっと置いた。

「ありがとうございます」

お礼を言うと、にこっと微笑んだ新田さん。佐久間に視線を移すと、

「文乃さん。奥様がお部屋に来るようにとの事でした」

と言って、キッチンへと戻っていった。


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