放課後の音楽室で
「…どうして…」

きっと無意識なのだろう。佐久間の口から言葉が漏れた。

「…今まで、どうすればいいか分からなかったのよ…。今日だったら、渡せると思って…」

佐久間のお母さんの話を聞いて、なんだかんだ血は繋がってなくても2人は似ているのだと思った。

「…私のこと…嫌いじゃないの?」

「…嫌いじゃないわよ。ただ…急にできた家族だから…どの距離が正しいか分からなかったの」

佐久間のお母さんの言葉に誤魔化しや偽りなんて全く感じなかった。

「…だから家に帰らなかったの?」

「…それもあるけど…それよりも他の理由があるの」

佐久間のお母さんはそう言うと、小さく息を吐いて、窓の外を見た。

「…23歳の時、専門学校出て、やっと会社の認知度も上がって、怖いくらい色々なことがうまくいってた。でもね、恋人との間に子どもを授かった」

えっ…

俺自身驚いたけれど、佐久間も驚いた表情をしている。

「…結婚するつもりだったわ。だけど、彼は私の前から置き手紙だけ残して姿を消した。逃げたのよ。私1人でも、育てようって覚悟したわ。お腹も大きくなっていった」

そこまで話して、佐久間のお母さんは紅茶を飲んだ。



< 114 / 120 >

この作品をシェア

pagetop