放課後の音楽室で
「上田くん、文乃の家に迎えに来たの?」

靴を履き替えながら怜ちゃんが聞いた。

「うん。心配してくれたみたい」

私もそう答えて、靴を履き替えた。

「…意外」

「そう…なの?でも、上田くん優しいから」

「まあ、文乃にはね」

私には?

「みんなにも優しいと思うよ…?」

「…多分ね、それ、優しさの部類が違うから」

優しさの部類…?

怜ちゃんの言っている意味がよく分からず、私は不思議に思って首を傾げる。

「まあ、文乃は文乃のままでいいのよ。それより、今日の英語当たる番なの。文乃、予習ノート見せて!お願い」

ふふっと笑った怜ちゃんは、すぐに授業の話に話題を変えた。

「うん、いいよ」

話をしながら、帽子から香る洗剤の匂いが、いつもの上田くんからふわっと漂ういい匂いと同じで、ちょっとだけ安心する。

教室に入ると、私の怪我を心配して声をかけてくれたクラスメート。だけどすぐに話題は、この野球帽に変わった。

「これ野球部の?」

「うん、上田くんが貸してくれて…」

「ああ、上田くんか。納得」

「だよな」

不思議とみんな、すんなり納得して、それ以来、傷にも帽子にも触れなかった。

やっぱり、みんな上田くんは優しい人だって知ってるんだ。

そう改めて思って、私は1日を比較的傷を気にすることなく平和に過ごした。



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