放課後の音楽室で
手術が終わってから、初めての登校。片手が使えないって、こんなに日常生活不便なんだと実感した。

スポーツバックを肩にかけて、いつもの通学路を歩く。

「上田くん!」

あっ…

佐久間の家の前で、笑顔で手を振る佐久間を見つけて、俺は手を振りかえす。

待ってたんだ…。

佐久間の怪我が良くなってからは一緒には登校していなかった。

だけど、きっと俺の怪我を知って、佐久間なりの気の遣い方だったんだと思う。

「佐久間、おはよう」

「おはよう。…痛む?」

俺の白いギプスを指差して尋ねる。

「うん、まだ少し。でも痛み止め飲んでるから大丈夫」

そう話をしながら、これじゃあこの前と立場が真逆だと思って、ちょっと笑いが込み上げてしまった。

「意外と、元気そうで安心した」

ほっとした表情の佐久間に、俺は小さく頷く。

「一昨日、怪我した時に中川先生がかけてくれた言葉が結構力になって」

「中川先生…?」

「うん。中川先生って、不思議だよな。口数少ないのに、一言一言に説得力あるって言うか」

「あー…それすごく分かる。欲しい時に、欲しい言葉をくれるのよね」

佐久間も同じように感じてくれていたことに、ちょっと嬉しくなる。

「しばらくは見学?」

「ううん。いい機会だから下半身のトレーニングをやろうと思ってる」

そう言うと、驚いた表情で俺を見た佐久間。

「…上田くんってすごいな」

「そんなことないよ」


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