放課後の音楽室で
「なんでそう思うわけ?」

不思議そうに俺を見る慎吾に、制服のボタンを締めながら口を開いた。

「佐久間のタイプは分かんないけど、俺みたいに特に目立つわけでもない男ではないんじゃない?」

ぶっちゃけ、佐久間は色々な才能を持ってる。

ピアノはもちろん、勉強だって、芸術の面だって、他の人と比べても頭ひとつ抜けてる感じ。

そこは、やっぱり元々の家系だったり、環境だったりするんだと思うけど…。

「じゃあもし、佐久間のタイプがドンピシャ圭介だったら、佐久間のこと好きになる?」

「…それは……」

俺は言葉に詰まった。そんなこと考えたこともなかったから。

俺のタイプって…そもそもなんなんだろう。

「まあ、いま怪我を治すのが最優先だから。恋愛は引退してから考える」

野球をしてる間は、彼女を作ってる暇なんてないと思うから。

俺はそう自分にも言い聞かせて、ロッカーを閉めた。






〝今日、トレーニング頑張ってる姿、音楽室から見えたよ〟

お風呂に入って、ベットに横になると、佐久間からメールが来ていた。

〝そうだったんだ?そういえば、野球でよく使う曲弾いてた?〟

〝うん。上田くんへの応援歌〟

えっ…。

まさかの返答に、俺はドキッとしてメールの返信を打つ。

〝ありがとう。やる気出た〟

〝届いてて嬉しい〟

些細なメールのやり取りだけど、楽しい。

佐久間のタイプが圭介だったら?

慎吾の言葉が頭に浮かび、慌てて掻き消す。

「明日も頑張るよ」

そう打って、スマホを枕元に置いた。

佐久間と初めて会ったのは、中1の入学式。佐久間の第一印象は、ちょっと変わった子。

先生への疑問は、普段俺たちが何気なくその通りにしてきたことばかりで、俺は正直、視点が面白いなと思っていた。

中には、面倒臭いと思っていた人もいると思うけど。


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