放課後の音楽室で
少し休憩して、他の2曲も聴いて合わせてみる。

「さすが、覚えるの早いね」

「記憶力には、自信があります」

そう言うと、3人とも驚いた表情をして、すぐに笑った。

「納得。耳もいいしね」

菊池先輩はそう言うと大きく伸びをして時計を見た。

「おっ、そろそろ時間だ。彼氏、迎えに来るんじゃない?」

えっ…

「彼氏じゃないですよ?」

「ふふっ。そっか、そっか」

村井先輩は、なんだか楽しそう。

「まあ、上田くん、硬派な感じするもんな」

間中先輩は、メッシュの混ざった髪の毛をかき上げながらそう言うと、タオルで汗を拭く。

コンコン

「ほら、来たみたいだよ?」

菊池先輩に言われて、私は扉の方を見た。

ゆっくりと空いた扉から顔を覗かせたのは、スポーツバックを肩にかけた上田くん。

「…こんばんは」

「こんばんは。今終わったところ。佐久間さん、一緒にやってくれるって」

村井先輩の言葉に、上田くんは一瞬で嬉しそうに笑った。

「楽しかったんだ?」

「うん!」

「じゃあ、俺これから練習の時は、今日みたいに迎えに来るよ」

「いいの?」

「うん。夜道は危ないからね」

上田くんの気遣いが嬉しくて、私は思わず上田くんの手をぎゅっと両手で握った。

「ありがとう!」

「…あっ、うん」

私は帰る支度をして、先輩達にお礼を言う。

チラッと、菊池先輩が上田くんに何か話してるのが見えたけど、耳のいい私にも聞こえないくらい小さな声で聞き取れなかった。



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