放課後の音楽室で
「…もう少し、一緒にいられたらって思うけど…」

「え?」

俺は、扉の前で心臓が跳ね上がった。

これは、菊池先輩が告白をする気だと、はっきりと分かったから。








「文乃ちゃん、俺と付き合わない?」








先輩の声がはっきり聞こえて、俺はその場にしゃがみ込んだ。

そして、ショックを受けている自分の気持ちに気がつき、佐久間への想いを自覚する。

今気づいても…。

小さく息を吐いて、床を見る。

「…気持ちは嬉しいですけど…私、誰ともお付き合い出来ないんです」

「え?」

え?

菊池先輩の声と、俺の心の中の声が重なる。

誰ともお付き合い出来ないって…?

「実は、私には決められた許婚がいるらしくて」

「…許婚?」

「はい。18歳になったら顔合わせするっていう約束らしいです」

佐久間の口から出た言葉の数々に、さすが佐久間の両親だと思った。

「でも…じゃあ、その時まで付き合うのは?」

「…別れが決まってるのに付き合うなんて、失礼なことできません」

佐久間の言葉が俺の胸にグサッと突き刺さる。

俺にも見込みがないってことだな…。

静かに立ち上がって、足音を立てないようにその場を立ち去る。

佐久間は、18歳で初めて会う人と将来結婚するって決まってるんだな。

それって、佐久間に選択権はないってことなんだよな…。

それで、いいのかな。


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