放課後の音楽室で
「うん。上田くんの足音って特徴あるから」

「…耳良すぎ」

そう言うと、佐久間はふふふっと笑って椅子を引くと、俺の前に座った。

「このミルクティー、貰っていい?」

「うん。元々、佐久間用」

「ありがとう」

ペットボトルの蓋を開けて、ごくっと一口飲む佐久間。その姿が、ちょっとだけ大人っぽく見えて、俺の胸がざわついた。

「上田くんも打ち上げ行くでしょ?」

「うん。佐久間も?」

「もちろん。私お肉大好き」

佐久間の笑顔が、俺の気持ちをちょっとずつ落ち着かせていく。

あえて、さっきの話題には触れない。佐久間から言い出すまでは。

俺は、そう心に決めて、佐久間に微笑み返した。












「佐久間、送ってく」

焼肉をみんなでお腹いっぱい食べて、ワイワイ盛り上がってあっという間に解散の時間。

外は真っ暗で、同じ方向に行くのは俺と佐久間だけだった。

「うん。一緒に帰ろう」

お店を出た佐久間は、星空を見上げた。

「もうあっという間に秋が終わっちゃう」

「だな。寒くない?」

「平気。中にカーディガン着てるから」

佐久間の息がうっすら白くなっている。歩きながら、冷たい自分の手を制服のポケットに入れた。

「…今日、菊池先輩との会話聞いてたでしょ?」

「えっ…あっ…うん」

まさかそれを話題にしてくるとは思ってなくて、結構動揺する。


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