放課後の音楽室で
佐久間の背中に回していた手を離し、そっと頬を包み込む。

ドクンッと胸が大きく鼓動した。

俺は、ゆっくりと佐久間の顔に自分の顔を近づける。









「にゃー」









えっ

猫の鳴き声が耳に届き、俺はハッとして佐久間から離れる。

今の自分の行動に、慌てて口元を抑えた。

俺…今、佐久間にキスしようとしてた…?

自分のしていたことに動揺して、ぱっと佐久間から離れた。

佐久間をチラッと見ると、真っ赤な顔で両手で口元を覆っている。

「ご、ごめん…」

俺がそう言うと、首を小さく横に振った佐久間。

「じゃ、じゃあ俺、そろそろ帰るね」

「う、うん…。また始業式でね」

「うん」

俺はまだ動揺が収まらないまま、佐久間に手を振って背中を向けた。

「あ、あの」

背中から佐久間の声が聞こえて、足を止めて振り向く。

「春休み中、たまに電話してもいい?…迷惑じゃなかったら…」

顔を赤くしてそう言った佐久間に、俺は頷いて手を振った。

歩きながら、安堵の表情を浮かべた佐久間を思い出す。

付き合ってるわけじゃないけれど、特別な存在には変わりない。

佐久間の声、聞けるのか…。

自分の表情がにやけないように気をつけて、家へと向かった。






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