放課後の音楽室で
「圭介、相変わらず素直だな」

そう言った兄ちゃんは、穏やかに笑うと冷蔵庫に向かった。

さっきまで2人でデレデレしてたのに、急に大人の余裕を見せてくる兄ちゃん。

ずるいよな。

なんだかんだで、俺は兄ちゃんを尊敬してしまう。

テニスだって、全国大会の常連だったくらい上手いし、大学だってスポーツ推薦で入ってる。就職先だって、スポーツ関係だし。

頑張るって決めたことはとことん頑張る兄ちゃんは、すごいと思う。

じゃあ、俺は?

野球が大好きで、いつも部活のことばっかり考えてた。でも、かと言って県大会で上位に食い込むのはかなり難しくて、その中で俺はレギュラーにやっとなれるという技術力。

特に、取り柄はない。ましてや、野球をとってしまうと、全くもって何も残らない。

佐久間になんとか説得するって言っておきながら、このままの俺じゃあ無理じゃないか。

現実を見つめ直すと、冷や汗が出そうになる。

そもそも、俺が将来目指している仕事って、何がある?

まずい…。

引退するまで、あと数ヶ月。その後は受験勉強が本格的に始まる。

進路決めるの、遅すぎだよな…。

もう一度、小さなため息をついた。

< 50 / 120 >

この作品をシェア

pagetop