放課後の音楽室で
「…一緒に帰らなくて大丈夫だった?」

申し訳なさそうに言った佐久間に俺は、

「大丈夫」

と即答して、佐久間に近づく。

「話って…?」

「うん。歩きながら」

佐久間が歩き出したことに合わせて俺も隣を歩く。

「あのね…、昨日珍しくお父さんが早く帰宅して、今度の土曜日に急遽許婚と会うことになったって…」

えっ…

「18になったらじゃなかったの…?」

「その予定だったけど、私の誕生日って、3月でしょ?…相手は、8個も上の方で、その時期って会社の年度納めですごく忙しいってことで…今のうちに顔合わせしておこうって…」

まじか…。

「…そっか…にしても、急だよな」

なるべく動揺を隠すように、ゆっくりとした口調で話す。

「うん。それでね…ちょうど進路の話も父に伝えたの。そしたら…大反対。どうせ、結婚したら家庭に入るんだから、無難に短大出て結婚すればいいって…」

「…佐久間…それってひどくない?」

俺がそう言うと、佐久間は鼻をすすって頷いた。

結婚だけじゃなくて、進路まで自分で決めれないなんて。

佐久間には悪いけど、佐久間のお父さんは、娘の人生をなんだと思ってるんだ。

そう思ってしまい、申し訳ないとお思いながらも拳をぎゅっと握った。
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