放課後の音楽室で
「…佐久間は、医学部行きたいんだよね?」

「うん…。でも学費とかそういうのもあるから…私の気持ちだけじゃもうどうにも出来ない…っ…」

ハンカチで目元を抑えた佐久間の姿に、胸がぎゅっと締め付けられる。

「…佐久間、公園でちょっと落ち着こう」

このままじゃ人目も気になるし、ゆっくり話を聞いてあげられない。

そう思って、佐久間の手を掴んで、公園に入り、ベンチに座らせた。

「ちょっと待ってて」

そう告げて、自動販売機でお茶を1本買って佐久間に渡す。

スポーツバックを下ろして、佐久間の隣に座った。

「…相手、結構年上だったんだ?」

「…うん。私も初めて知った。お父さんの知り合いも社長の息子さんだって。後々は会社継ぐって言ってた…。私…っ…社長夫人なんて無理だよ。…自分のやりたい仕事に就きたい…っ」

泣いている佐久間の口から、本音が溢れ出る。

「…お母さんは…?」

遠慮しながら確認すると、佐久間は首を横に振った。

「…私に関心無いと思う」

その答えはなんとなく予想してた。

家政婦の新田さんも、佐久間の両親に意見を言うことは出来ないと思うし。

つまり、家の中に佐久間の味方は誰もいない。




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