放課後の音楽室で
「あっ…う、上田くん、先帰ったほういいかも」

えっ…

「どうしたの?急に」

突然、俺の方を向いて、手首をガシッと掴んだ佐久間。

怯えてる…?

俺の目を見た街灯に照らされた佐久間の表情に恐怖心と動揺が表れている気がした。

「…佐久間?」

そう俺が言ったのとほぼ同時に、

「文乃」

と低い男性の声が聞こえた。

声のした公園の駐車場付近に視線を移し、暗闇をじっと見ていると、黒い人影が見えた。

もしかして…

「お父さん…?」

そう言うと、佐久間はコクッと小さく頷いた。

近づいてきた佐久間のお父さんの顔が次第にはっきりと見える。

佐久間のお父さんは、俺の緊張が走るくらい、ものすごく険しい表情をしていた。

「文乃、こんなところで男と何してるんだ」

低い声のお父さんに、佐久間の体が僅かに震えている。

「ご、誤解しないでください。ただ、話をしていただけで…」

そう言った俺に視線を移した佐久間のお父さんは、佐久間が俺の腕を掴んでいることに気が付き、深いため息をついた。

「…どういった関係かは聞かないが、距離は近いようだ。悪いが、文乃は連れて帰るよ」

佐久間に向けた視線よりは、少し鋭さが軽減されたものの、スーツ姿の佐久間のお父さんの圧はすごい。



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