放課後の音楽室で
佐久間は慌てて俺から手を離すと、俯いたまま立ち上がる。

「昨日の話の続きをしようと思ったら、帰っていない。新田に聞いたら歯切れの悪い返事しかしなくてな、嫌な予感がしたんだ。文乃、お前にはもう決められた相手がいるんだから、くれぐれも遊ばないように」

俯いたままの佐久間に一方的に話、佐久間の前を歩き始めた佐久間のお父さん。

俺は黙っていられず、握り拳を作って佐久間のお父さんの背中を見つめた。

「あ、あの!」

声をかけると足を止めて、俺の方を振り返る佐久間の父さん。

佐久間も、俺の方を泣きそうな顔で振り向いた。

「…佐久間の進路、もう少しちゃんと聞いてもらえませんか?どうして、その道に進みたいのか。佐久間のお父さんにだって関係あることだと思います。お願いします」

本当は、喧嘩腰に気持ちを吐き出したかった。だけど感情に任せて話してしまったら、気分を害してしまうと思ったし、伝わってほしいことが伝わらなくなると思った。

佐久間のお父さんは、表情は一切変えないまま暗闇へと進んでいく。

俺は、目の合った佐久間になるべく優しい表情を向けて、口を開いた。

「佐久間、すごく勇気いることだと思うけど、あと一歩だけ踏み込んで、本心ぶつけてみてよ。俺、待ってるから」

佐久間は、手で涙を拭って、小さく頷くと、一瞬だけ手を振って、暗闇へと歩いていった。

佐久間、がんばれ。

伝わらなかったら、俺も一緒に説得するから。








そう思っていたけど、次の日から佐久間は学校を休んだ。


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