放課後の音楽室で
テーブルには出来立ての、いつもより豪華な朝食が置かれていた。

「…新田さん、ありがとう」

「いいえ。文乃さん、昨日は庇ってあげられなくてごめんなさい」

エプロンで手を拭きながら申し訳なさそうに言った新田さんに、私は首を横に振った。

「ううん。こうやって新田さんがいてくれるから、自分を保ててるんだと思う。ところで…」

私は牛乳を一口飲んで新田さんに話を続けた。

「…どうして、お父さんは私をこんなに結婚させたいのか知ってる?…そんなに私、邪魔なのかな」

昨日の夜考えて、お父さんは私に早くこの家から出ていって欲しいのかなって思った。

それが、1番納得できたから。

新田さんは、私の言葉に哀しげな表情を見せる。

「…いいえ。…その逆です」


「えっ?あっ」

ガシャンッ

意外な新田さんの返事に、私は驚きを隠せず、牛乳をこぼしてしまった。

「ああ、大丈夫ですよ。すぐお拭きします」

床に落ちる牛乳を新田さんと2人で慌てて拭き取る。

床を拭きながら、新田さんはさっきの話の続きを始めた。

「…文乃さん、…本当は、旦那様は気持ちをお伝えするのがとても下手なのです」

「…どういうこと?」

「旦那様は…美知枝さんがお亡くなりになったのは、旦那様と再婚なさる前の過労が原因だと今でも思っているのです。…だから、文乃さんには裕福な家庭で苦労なく生活して欲しいと思っているのです。…本当は、文乃さんのことが心配で仕方ないんですよ?」




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