放課後の音楽室で
「そういえば、学校に休みの連絡してなかった…」


「それなら、旦那様からお話がありましたので、体調不良で数日休むと連絡は入れておきました」

えっ…

「…意外。お父さん、学校のこと関心なさそうなのに…」

今日は今まで見えなかったお父さんの意外な一面を知ることが多い。

「…意外に、その辺りは冷静なお考えをお持ちのようですよ?…せっかくの機会ですから、少し思い出話してもいいですか?」

新田さんは、懐かしそうな表情でそう言うと、ニコッと微笑んで口を開いた。

「どうして旦那様が、文乃さんをエスカレーター式の名門私立に入学させなかったかご存知ですか?」

それ…私も疑問に思ったことある…。お父さんの考え方や、お母さんの知名度からすると、そういう学校も選択肢にあったんじゃないかって思ったことがあったから。

私は首を横に振って、じっと新田さんの言葉を待つ。

「…旦那様が、普通の感覚を持った子に育てたいと奥様におっしゃったからです」

えっ…

「奥様は、大反対だったんです。元々家柄がとてもいいところの出ですので、自分と同じような環境でっていうことが当たり前だったようで…」

今はもうほとんど家に帰ってこないお母さんの事を思い浮かべる。

会社の最上階に、生活専用のフロアがあって、お母さんはほとんどそこで暮らしている。

ここに帰ってくるのは、年末年始と何か用がある時のみ。

血がつながっていない私なんかの顔を見たくないのかもしれないとも思ってしまう。




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