放課後の音楽室で
さしている傘に、強い雨音が響き渡る中、俺は佐久間の家の豪華な門を見上げた。

ガレージに車が止まってる…。佐久間のお父さんか…?

いつもは無い、たった一台の車を見ただけで、緊張が走る。

ゆっくりとインターホンに手を伸ばす。

一度深呼吸をして押すと、すぐに新田さんの声が聞こえた。

「上田さん、来てくださったんですね」

安堵した様子の新田さんの声に、俺も胸を撫で下ろす。

「今、文乃さんがそちらへ」

えっ?

佐久間が?

そう思ったのとほぼ同時に、門のロックが解除され、庭の合間の長い小道の先の玄関が開いた。

「…上田くん」

ワンピースにカーディガンを羽織った佐久間が、出てきて、傘をさすと俺の元へと駆けてきた。

パシャパシャと佐久間の足元に雨水が飛び散る。

でも、そんなことも気にせず、俺のすぐ目の前までくると、とても嬉しそうに笑って、俺の腰にぎゅっと手を回した。

佐久間のさしていた花柄の傘がパサっと地面に落ちる。

佐久間の行動に、時間が止まったような感覚に陥ったけれど、俺の心臓の鼓動はしっかりと大きな音を立てている。

「…会いにきてくれたの?」

「うん。佐久間、全然スマホ繋がらないし…流石に心配になって…」

俺の胸に顔を埋めたままの佐久間にそう答えると、俺の腰に回した佐久間の腕に更に力が入った。
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