放課後の音楽室で
自分の心拍数が速くなるのを感じながら、そっと佐久間の背中に手を添える。

佐久間だって、学校に来たかったよな…。

「…明日、例の婚約者?と会うんだよな…?」

俺の問いに、ゆっくりと頷く佐久間。

やっぱり、お父さんの気持ちは、変わらないんだな…。

俺の胸がぎゅっと締め付けられる。








「文乃」








あっ…

開けっぱなしの玄関の方から、佐久間を呼ぶ声が聞こえて、視線を向けると、佐久間のお父さんが、険しい表情で立っていた。

佐久間は、俺からゆっくりと離れて、顔を上げると、

「…行かないと。上田くんに迷惑になっちゃう…」

と、悲しげに微笑んだ。

その表情に、俺の胸がズキンッと痛む。

そして、背中を向けた佐久間の手首を咄嗟に掴んでいた。

「う、上田くん?」

驚く佐久間とは対照的に、俺の視線に先で、表情も変えずにただじっと俺を見ている佐久間のお父さん。

俺は、佐久間のお父さんに、佐久間の手をひいたまま近づく。

佐久間のお父さんと目を合わせたあと、俺は深く頭を下げた。

「ちょ、ちょっと、上田くん…?頭あげて?」

俺の行動にあたふたとする佐久間。だけど、俺は頭を下げたまま口を開いた。



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