放課後の音楽室で
「お願いします。佐久間の気持ちに耳を傾けてくれませんか?…結婚だって…本当は自分で決めるから、幸せになれるんだと思います」

まだまだ世間知らずな俺だけど、自分の親に気持ちを理解してもらえないのは、かなり辛いことくらい分かってる。

だから、佐久間の気持ちを聞いて欲しかったし、ちゃんと向き合ってほしいと思った。

どのくらい沈黙が続いたのだろう。雨音が響く中、佐久間のお父さんの足元が動き、一歩前に出たのが分かった。

「…話は、すでに聞いた。その上でも、私の気持ちは変わらん」

佐久間のお父さんの言葉が、正直悲しかった。だからこそ、俺はゆっくり顔を上げて、質問した。

「…本当に、何も変わらなかったんですか?佐久間のお父さんだって、好きになったから、佐久間の本当のお母さんと結婚したんじゃないんですか?」

一瞬だけ、佐久間のお父さんに目元がぴくっと動く。

好きだから結婚したはず。だって、自分の血とつながりのない佐久間がいるにも関わらず、受け入れて一緒になったんだから。

その確信は、なぜか俺の中にはあった。

「…まだ親元を離れたことのない君に何がわかるんだ…」

「…それは、そうですけど…。でも、人を好きになる気持ちは分かってます」

だって、俺は今、隣にいる佐久間のことが好きだから。

佐久間の手を握る手にぎゅっと力を入れた。

「…上田くん…」


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