放課後の音楽室で
ポソっと、佐久間が泣きそうな声で俺を呼ぶ。

佐久間の気持ちを察して、優しい気持ちで佐久間を見ると、佐久間は悲しげに、でもどこか安心したように微笑んだ。

「…まだ将来も決まってない君に、何ができる」

「…決まってないから、これからどうにでも出来ます…。俺が、どうなれば、佐久間のこと自由にしてくれますか?佐久間のやりたいこと、やらせてもらえますか?」

悔しかった。確かに、今の俺は無力だから。

「…君は、文乃と付き合ってるのか?」

俺は空いている手の拳を、ぎゅっと握った。

「いいえ。でも、気持ちは一緒です」

佐久間の父さんは、眉間に皺を寄せたまま、俺をじっとみると、ゆっくりと口を開いた。

「…私を納得させる大学に、入れるのか?」

「…そ、それは…」

正直、佐久間にお父さんの納得するような、大学に入れるとは思えない。だけど…

「佐久間に不自由はさせないようにします…」

そう言いながら、なんかこれって…自分が佐久間を貰うって宣言してるようなもんだと思って、ちょっと体が熱くなった。

「…社会に出たこともない「お、お父さん、上田くんに、そこまで言わなくても!」

初めて、佐久間が、感情的にお父さんの言葉を遮った。

「ひどいよ。…私、明日は絶対行かない「文乃」

「…っ…家にいたら無理矢理にでも連れて行くんでしょ?だったら…私、明日が終わるまで帰らないから!」

えっ?

気がついたら、今度は佐久間が俺の手を引いて、小走りで門を出ていく。

「ちょ、ちょっと…」

薄暗い雨の降る中、傘一本でパシャパシャと足元を濡らしながら走る俺と佐久間。

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