放課後の音楽室で
『好きな人と結婚するから幸せになれるんじゃないですか』

あの少年の言葉が頭の中にループする。

知り合いの社長の息子は、次期社長就任が決まってるエリート。そういう人と結婚すれば、苦労は少ない。だが、心の充実はあるのだろうか。

どうして、そこを今までちゃんと理解していなかったのか。自分自身が、馬鹿馬鹿しい。

心が満たされなければ、幸福感が低くなる。心労だって溜まる。

結局彼女と同じになってしまうのではないだろうか。

むしろ、家庭に入り主婦になるよりは、文乃のやりたい職業に就き、忙しかったとしても、充実感が味わえた方が、文乃のためなんじゃないか。

「…足元が見えてなかったな」

そう呟き、雨が打ち付ける窓を見た。

本当に、帰ってこないつもりか…?

両想いであろうあの少年と一緒にいるのだろうか…。

コンコン

「旦那様…よろしいですか?」

「ええ」

新田さんの声が扉越しに聞こえて、中に入るように声をかける。

扉を開けて入ってきた新田さんは、哀しげな表情で、私の様子を見る。

「…大丈夫ですか…?」

「…自分の間違いに目を向けてました…」

そう答えると、新田さんは温かいコーヒを私の机の上に置いた。

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