放課後の音楽室で
「…文乃さんが、感情的になって、私はちょっと安心したんです」

えっ…

「本当の親子でしたよ?」

ふふっと微笑んだ新田さんの言葉が、胸を熱くさせる。

「…親子喧嘩…ですかね」

苦笑いでそう答えると、新田さんは、

「はい」

と、言って笑った。

「…明日のことは、断りの連絡を入れます…」

「賢明なご判断かと…」

新田さんは、そう言ってクルッと向きを変える。

「あの少年、上田くんは…昔から文乃と仲が良いのですか?」

私は、文乃の交友関係が全くと言っていいほど分からない。

「ええ。中学からずっと同じクラスの子です。とても優しくて、周りがよく見える賢い子ですよ?」

新田さんの言葉から、新田さん自身も信頼していることが伝わる。

「…そうですか」

「文乃さんも男性を見る目がありますね」

「…それは…」

も、ということは、文乃のお母さんのことを言ってるのだとすぐに分かり、気恥ずかしくなった。

新田さんは私に丁寧に頭を下げると部屋を後にした。

今まで、文乃に対する接し方が全く分かっていなかった。

今更…手遅れか…。

深いため息をついて、まだ熱いコーヒーを口へと運んだ。



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