放課後の音楽室で
こんな風に、お父さんと2人っきりで狭い空間で一緒の時間を過ごしたのって、いつぶりなんだろう。もしかしたら、初めてなのかもしれない。

暗闇だかミラーに映るお父さんの表情は、見えない。

だからこそ、いつもよりは落ち着いて話ができてるのかもしれない。

今なら…聞けるかもしれない。

私は膝の上でぎゅっと手を握って口を開いた。








「…お父さんは…私のこと重荷じゃない…?」









自分の心臓の音が緊張で大きく聞こえる。

少し間を置いて、お父さんの声が耳に届いた。

「重荷だとは一度も思ったことはない。ただ…、責任はある感じていた…」

「…どうして…?」

「…死ぬ前のお母さんと約束したからな…。文乃に不自由ない生活をさせるって…だが…」

そこまで言って、一度言葉を切ると、お父さんは少し考え込む様子を見せた。

「逆に、枠にはめすぎて、文乃には窮屈だったかもな…」

えっ…

まさか、お父さんがそんな風に思っていたなんて驚いてしまい言葉が出てこなかった。

「…進路は、文乃の望むように決めなさい」

「えっ…いいの?」

「…それが、幸せに繋がるなら…。相手方には事情は伝えておく…」

私の気持ち…理解してくれたんだ…。

「…っ…ありがとう」

嬉しくて、そしてほっとして、私の目から涙がこぼれ落ちた。

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