放課後の音楽室で
まだ拭いきれない不安が頭をよぎる。

だけど…

今は自分の進路の実現が大事だよね。医学部いけなかったら何も始まらないし。

私は、ピアノの前に戻り、もう一曲だけ弾いた。

もうすぐ夏の県大会予選の始まる野球部に、上田くんに向けて。

これを弾き終わったら、図書室で勉強しよう。










「…久間、佐久間」

えっ

学習スペースコーナーで勉強していると、名前を呼ばれていることに気がつき、はっとした。

慌てて振り向くと、そこには上田くんが苦笑いで立っていた。

「すごい集中力」

「あれ、上田くんなんで…」

言いかけて時計を見ると、18時45分を回っていた。図書室の学習スペース閉館まであと15分。

「…怜ちゃんは?」

「怜さんが部活帰りに、佐久間が集中してるからそのままにしていくって声かけてきた。代わりに俺に迎えに行ってって」

「全然気が付かなかった…」

怜ちゃん、来てくれてたんだ。後でちゃんとメールしなきゃ。

「…これ、医学部向け?」

問題集を指差した上田くん。頷くと、私のノートを手に取ってページをパラパラとめくる。

「やっぱ、佐久間って頭いいんだな。俺、理科得意な方だけど、こんなの全然わかんない」

感心する上田くんの言葉が照れ臭くて、私はぎこちない笑顔になる。





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