放課後の音楽室で
「もうすぐ閉館だから、帰ろう?」

上田くんは、ノートを閉じて問題集と重ねると、私に手渡した。

「うん」

私が受け取って返事をすると、上田くんはスポーツバックを肩に掛け直した。

「そういえば、これ」

そう言って、上田くんがポケットから出してきたのは、紙パックに入ったぶどうジュース。

「どうしたの?」

「今日、売店でジュースとパン買ったら、おばちゃんが一本おまけしてくれた」

「上田くんは、飲まないの?」

「うん。俺、スポーツドリンクあるから」

一緒に図書室を出て、昇降口で靴を履き替える。

「上田、まだ残ってたのか」

あっ…高梨先生だ…。

「は、はい。図書室寄ってたんで…」

「ああ、佐久間と一緒だったのか」

高梨先生は私に気がつくと、なぜか納得した様子で頷いた。

「日が長くなったとはいえ、暗くなる時刻だから、気をつけて帰るように」

「はい」

「佐久間、上田にちゃんと送り届けてもらうんだぞ」

「えっ…」

高梨先生がそうんなこと言うとは思わなかったから、心の声が漏れてしまった。

ほんのり顔が熱くなる。

「2人とも、また明日」

「はい、さようなら」

「さようなら」

先生は、ひらひらと手を振って、廊下を歩いていった。








< 87 / 120 >

この作品をシェア

pagetop