放課後の音楽室で
「上田さん、いらっしゃい」

新田さんが、スリッパを出しながら丁寧にお辞儀をする。

慌てて俺も頭を下げて、スリッパに履き替えた。

「あの…佐久間の傷、実は野球部のミスで」

「ええ、聞きました。野球部の顧問の先生から、ご丁寧に謝罪の電話がありました」

高梨先生、連絡してたんだ…。

自分達のミスなのに、先生が俺たちの知らないところで、こう言うところまで対応していることを知ると、先生に対して申し訳なさが溢れ出てくる。

「実はね、病院の帰りにお気に入りのお店のクッキー買ってきてたの。一緒に食べて行ってくれる?」

「あっ、うん。ありがとう」

紙袋を抱えて、佐久間が椅子に腰掛けた俺の方を振り向いた。

「そういえば、上田くんレギュラーに入ったんでしょ?」

お皿にクッキーを並べながら尋ねてきた佐久間に、俺はちょっと驚いた。

「うん。知ってたんだ?」

全然野球の話をしたことがなかったのに、よく知ってるな。

「廊下で、たまたま野球部のひとが話してたの聞いちゃって。ほら、私耳はいいから」

「そうなんだ?確かに、佐久間は耳良いもんな」

一度聞いた曲は正確に弾けるっていうし。それに、英語も先生の発音完コピする。

そういえば…

「手も怪我させちゃったけど、ピアノに支障は…?」

「少しすれば、また弾けるよ?今は傷口塞がってないからちょっと痛いけど」

「…佐久間、ごめん」




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