放課後の音楽室で
「圭介は…最近どうなの?」

えっ…

「…俺は特には何も」

兄ちゃんの話にドキッとしながらも平然を装って答える。

母さん、言ってないよな…。

そう思って、一瞬母さんを見ると、特に表情も変えずにお茶を飲んでいる。

どっちだ…?

「まあ、頑張れよ。受験生」

ぽんっとおれの頭に手を置いた兄ちゃんから、強引に抜け出す。

「もう、高3なんだからそんなに子ども扱いしないで」

俺の言葉に、兄ちゃんはケラケラと笑ってコーヒを飲んだ。

いいよな。社会人として働いて、好きな人とうまく行って。

「…なんか、大人の余裕」

「えっ?何が?」

あっ、やべ。

心の声が出てしまって、慌てて俺もお茶を飲む。

「…やっぱり、圭介、ラブの方行き詰まってる?」

「……」

無言の俺に、兄ちゃんは苦笑い。

「青春ってやつだな」

「…そんな単純じゃないし」

それだけ答えて俺は立ち上がり、冷蔵庫から兄ちゃんの大阪からのお土産のプリンを手に取った。

「それ、すっごい人気らしいよ?」

「へー…ありがとう」

まじまじとプリンの入った小瓶を見る。こんなおしゃれな瓶に入ってるのか。

ふと、前に佐久間のお父さんの持ってきたパンナコッタを思い出した。

あれ、やっぱ美味かったな…。しかも佐久間のお父さんのおすすめってのもまた、なんと言うか…。

俺は、キッチンの棚からスプーンを手に取った。





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