押し倒して、鼻先にキス。
「すっ、すみません!大丈夫ですか!?」
「あ、はい大丈夫です…そちらは濡れてませんか?」
「はい俺は全然…!あ、あのよかったらこれ…使ってください!」
ぶつかった男の人が、慌てた仕草でポケットからハンカチを取り出した。
清潔感のある、青いストライプ柄のハンカチ。
「いえいえ大丈夫です!」
それは丁重にお断りした。アイロンでもかけられているかのように、ピシッと皺ひとつないハンカチ。むしろそのハンカチを汚す方が躊躇してしまう。
「でも…!」
男の人が困ったように眉を下げた。
黒縁メガネをかけた男の人。見るからにマジメで、誠実そうな人。
ハンカチ持ってるのもかなりポイント高い…!なんて私は内心で思った。
「ほんとに大丈夫なんで、気にしないでください」
実はけっこう服は濡れていて冷たかったけど、まだ真冬じゃなくてよかった。店内はあたたかいしそのうち乾くだろう。
ペコ、と一礼して席に戻ろうとしたら、「あの!」と呼び止められた。
「もしよかったらお詫びに今度ご飯でも奢らせてください。連絡先聞いてもいいですか…?」
…もしかして。
メガネの奥の澄んだ瞳に、私は胸が高鳴るのを感じた。
出会い…きた!?