嫌われ夫は諦めない
リディオは女関係にだらしがない。その彼であれば、あばずれ令嬢の婿となっても大丈夫と思われたのだろう。
あばずれ令嬢の母であるアリアは、イヴァーノと一緒に僻地へ追いやられた後しばらくしてから王都に出戻っていた。夫のイヴァーノと産んだばかりの娘シャスナを捨て、生家である男爵家に戻ったがその後が酷かった。
男をとっかえひっかえしたかと思えば、そのうち不倫騒動になる。次第にふしだらな女の娘シャスナもあばずれに違いない、と噂が流れた。誰もそのシャスナの姿を見たことはないけれど、可憐なアリアと美麗なイヴァーノの二人の子どもであれば、見目麗しいに違いない。
だが娘シャスナの評判はすこぶる悪かった。本当かどうかわからないが、噂が本当であればリディオはとんでもない外れくじを引いたことになる。知らず知らず、気持ちは暗くなり馬を走らせる気力もない。
王都からスティーズレン領までは馬であれば三日もかからず到着するはずが、もう五日目となっていた。先方にも知らせが行っているから、心配しているに違いない。だが――
「はぁー、めんどくせぇ」
リディオはもう自棄になっていた。騎士をしながら適当に生きていくことを目指していたのに、そんなことはどーでもいいくらいに自棄になっていた。自棄になりすぎて八つ当たりしたくなり……
「くそぉ! なんで俺が!」
小高い丘にある木を思いっきり蹴りつけた。