嫌われ夫は諦めない
「きゃぁああ!」
大木が揺れた拍子に、ざざっと葉っぱが揺れる。すると女の悲鳴が聞こえ、「あっ、やばっ」という声と共に上から何かが落ちてくる。
「うわぁっ」
「きゃぁあっ」
慌ててスライディングキャッチしたのは、人の姿をした妖精……ではなくて、本物の人間だった。
「い、いたぁい」
「大丈夫か? すまない、まさか人が上にいるとは思わなかった」
髪には木の葉をたくさんつけ、腕にはすりむいた痕をつけて落ちてきたのはふわふわのピンク髪をした女性だった。妖精と見間違えるほど可憐な姿に、思わずリディオの胸がドクっと高鳴る。
「君、怪我は」
「ごっ、ごめんなさいっ! あのっ、大丈夫ですから」
「いや、でも」
白く柔らかい肌にぽってりとした赤い唇、驚きのあまり頬を赤く染め榛色の瞳をうるわせた娘は驚きながらも後ずさりしてリディオから離れようとする。
木から落ちたということは、木に登っていたということだ。まさか、こんな可憐で麗しい娘がどうして、と思うがとにかく怪我をしていないか気になる。出来ればもう少し話をしたいと邪な想いを抱いてしまうが、それは見せないように極めて紳士に振る舞った。
「お、俺はリディオと言う、王都では騎士をしていた。訳あってスティーズレン侯爵を訪ねるところだ」
「え、リディオ? リディオって、第四王子のリディオ殿下?」
「な、よく知っているな? 君は何者だ?」
「私、私は……、シャスナです。シャスナ・スティーズレンです」
名前を聞いた瞬間、リディオの息が止まる。まさか、結婚相手のシャスナと聞かされ、違う意味でリディオの鼓動が跳ねた。
「う、嘘だろう~!」
丘にはリディオの驚く声が響き渡った。