嫌われ夫は諦めない



 シャスナは美しいと言われた両親から美貌を受け継ぎ、長いまつげにぱっちりとした瞳、背は低いけれど女性らしい体つきをしている。社交界に行けばさぞかし注目を集めていただろう。

 だが鄙びた土地から出たことはなく、母親もいないため着飾ることを知らないようだった。侯爵令嬢なのにその辺りにいる村娘と変わらない、みすぼらしい服装をしている。

 シャスナとリディオは結局、一緒に馬に乗ってスティーズレン侯爵家に行くと、白髪頭の執事が出迎えた。

「シャスナ様! どこまでいかれていたのですか!」
「あ、じい、この方は手紙にあったリディオ殿下なの。急いで客間を用意して」
「リディオ殿下ですか? はっ、はいぃ!」

 屋敷に入る前に、くるっと向きを変えたシャスナはリディオに向かい、ぺこりと頭を下げた。

「送ってくださり、ありがとうございました。我が家は建物は大きいのですが、勤め人も少ないので十分なもてなしも出来ません。あと、馬のこともご自分でお願いしますね。私は先に入って準備していますので、馬小屋に繋いだら中に入ってきてください」
「あ、あぁ」

 門構えはしっかりしているが、敷地には草が至る所に生えている。外壁も手が入っていないのか、ところどころ外装が剥がれ落ちて中に敷き詰められたレンガがむき出しになっていた。

 勤め人が少ないといっていたが、それにしても貴族が住んでいるとは思えないほどの荒廃ぶりだ。愛馬を引いて馬小屋へ行くと、馬は一頭もなくがらんとしている。
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