嫌われ夫は諦めない
「なんなんだ、ここは。これでも侯爵家なのか?」
シャスナ嬢の恰好といいこの馬小屋といい、予想外のことがありすぎて頭が回らない。後から自分の荷物を運んだ馬車が来るが、その家来たちもきっと驚いてしまうだろう。
とにかく状況を把握しなければいけない。屋敷に向かって歩きながら、さっきまで腕の中にいたシャスナを思い出す。柔らかい身体をしていた。馬から落ちないように腹に腕を回すと、ふわりと花の香りがした。
(いい匂いだったな)
ふわふわの髪は可愛らしく、リディオの胸をくすぐっていた。木登りしていたのは驚いたが、理由は木になっているリコの実を取るためだったと教えてくれた。リコの実は滋養強壮剤として有名で、身体が弱って寝込んでいる父親のためだと言っていた。
(もしかしたら、はずれではなくて当たりかもしれないな)
あばずれ令嬢というが、そんな雰囲気はまったくない。むしろ純情で可憐で可愛らしい娘だ。
彼女を夫とするということは……、と邪な想いに取りつかれそうになったところで、リディオはこほんと咳をした。今はそれどころではない、現状を把握することが先だ。
ぎいっと音を立てて扉を開くと、自然光の差し込むエントランスの中央には階段がみえる。先ほど顔を見せた執事が一人、深々とおじぎをしてリディオを向かい入れた。