嫌われ夫は諦めない
「お待たせしました、リディオ殿下。主人のイヴァーノは病気のため部屋で休んでおりますので、代理でシャスナお嬢さまがお相手いたします」
「侯爵はそれほど身体を弱められているのか?」
「はい、近年では床から上がることできず、寝たきりです」
「そうか、そんなことは報告されていなかったが」
「……」
執事は口を閉じて歩き出した。どうやら王宮への報告を怠っていたのか、侯爵の指示なのかわからないが、口止めされているようだ。
向かった先の部屋には、髪を整え着替えをしたシャスナが立って待っていた。色褪せた流行おくれの形のドレスを着ている。自分の妻となったら、もっといいドレスを着せようと思わず考える。
「遠いところを、お越しくださりありがとうございました。父は臥せていますので、私が代わりにお話させていただきます」
「それはいいが、私の訪問の便りは届いているのか?」
「はい、それはこちらに」
「では、私がどうしてここに来たのかも」
「えぇ、その件では殿下とご相談できればと思っていました」
にこりと微笑んだシャスナは、王家から届いた手紙を取り出した。
「ここに、私と殿下の結婚を命じることが書かれているのですが」
「あ、あぁ。そうなるな」
クズ王子の噂は流石にここまで届いていないだろう。そうであれば、美丈夫の部類に入る自分が相手であれば、シャスナも内心喜んでいるに違いない。初めから仲睦まじくとはいかずとも、時間をかけて関係を構築できればいい。
まずはお互いに知り合うことから始めよう、と言おうとしたところでシャスナがにこりと微笑んだ。
「殿下、私は結婚に夢もあこがれもありません。ですから、愛のある夫婦生活というものができる気がしません。殿下には王都にお戻りくださり、別居という形の仮面夫婦となりたいのですが、それでもよろしいですか?」
「は?」
リディオ二十五歳。初めて自分からアプローチしようとした女に袖にされた瞬間であった。