誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 仕事と言われればもちろん拒否できない。それに悠希さんがそれでいいと言っているのなら、仕事を放棄する理由などない。

 定時で上がらせてもらうと、まだ日が高くアスファルトの照り返しですぐに汗ばむ。七月の半ばになり、もうすぐ子供たちは夏休みになる時期だ。

 北海道はどうなのだろうか? そう思い、スマートフォンで確認すると、やはり東京ほど暑くないようだ。
 家に戻り薄手のカーデガンを用意した後、夕食の支度もしてしまう。

そして悠希さんの帰りを待つ間、明日の膨大な資料を確認することにした。公判の焦点や、資料を頭に入れていく。

 明日の裁判は、沢渡家と深い関係の方からの直接の依頼と聞いている。最近の先生にしては珍しい離婚の裁判だ。離婚調停は決着がつかず裁判になったそうだ。そこで夫の父上が所長と知り合いだったため、悠希さんに依頼が来たと聞いている。
 いつもは刑事事件や、国際案件ばかりしている先生が、こういった男女の問題を、どうするのか想像もつかない。

「天音は勉強家だな」
 集中していたようで、後ろからポンと肩を叩かれるまで、悠希さんが帰宅したことに気づかなかった。

「ごめんなさい! すぐに食事の準備をしますね」
 私の悪い癖で、すぐに集中してしまうのがいけないところだ。

「いい、それより天音ここ。一番の争点になるはずだから」
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