誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 彼を見上げてそう伝えれば、悠希さんはリップ音を立ててキスをする。それはだんだんと深くなってきて悠希さんの手が腰に回る。

「遅刻しますよ……」
「うん、そうだな」

 キスの合間にそう言うも、一向にやめる気配がなくて私はそのまま流されそうになり、慌てて筋肉質な彼の胸を手で押して軽く睨みつける。
 最近少しこうして私で楽しんでいる気もする。

「最近の悠希さん、意地悪です」
 今のキスで涙目になってしまっていて、説得力はないかもしれない。

「朝から天音がそんな顔をしているのが悪いよ」
 放心状態の私をよそに、クスっと笑うと悠希さんは出かけて行ってしまった。いったいどんな顔をしているというのだ。

「甘いな……」
 パタンとしまった扉に向かって呟いて、自分の唇に触れる。本当の新婚夫婦のような気がしてしまう。
 このまま、彼の愛が無かったとしても、幸せにふたりで生きていけるかもしれない?
 そんな淡い期待を持ってしまい。慌てて自分を戒める。今まで幾度となく襲った悲劇を思い出せば、幸せが怖いのも仕方がないかもしれない。

「いけない、急がないと」
 ぼんやりとしていた私は、自分も出勤時間が迫っていることもあり、急いで支度を始めた。
 少し肌寒くなってきたこともあり、ブラックのパンツに、落ち着いたベージュのニットに薄手のジャケット。
 
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