誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 悠希さんからそんな言葉が出たことが信じられなくて、絶望に似た気持ちが襲う。そうだ、私はもう役目も果たせない。

「離婚してください……」

 この子を守るためは、今それしかない気がした。いろいろなことがあり考えてから話すことができない。
 こぼれてしまった言葉に、自分でもハッとしたが、言ってしまったことを取り消せない。
 心の中はぐちゃぐちゃで、もう何が何だかわからなかった。ついこないだまで彼のことが大好きで、幸せだった。
 どうしてこんなことに……。

 妊娠すると情緒不安定になると聞いていたが、それも関係しているのかもしれない。
 ポロポロと涙が零れ落ち、血が滲みそうなほど唇をかみしめていた。鉄分の味がして私はそのことに気づいた。

「離婚は認めない。まだ契約中だ」
 そう言うと、悠希さんは何も言わず二階へと上がって行ってしまった。
 どうしてこんなことに……。ズルズルと床へと座り込んだ。
 やっぱり彼は愛などなく、妻としての役割を果たせる人しかいらないのだ。
 宮下の家の名前と、結婚という事実だけがあればいいのだ。
 でも……。
 どうしていいかわからず、私はその場で泣き続けた。
 
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