誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
　都内一大きい病院で、私ももちろん名前は知っているし、救急やほとんどの診療科がある総合病院だ。まさか、病院まで沢渡は持っていることに驚いてしまう。

　私の宮下の名前など、必要ないぐらい沢渡は名実ともに一流企業だ。過去の血筋にあぐらをかいている宮下とはまるで違う。
「わかりました」、

　素直に了承した私に背を向けていた悠希さんだったが、くるりと踵を返すと私の方へと歩いてくる。そしてそっと私の頬に触れた。

「大切にするからお腹の子と一緒に天音のことも守らせて」
　本当に心配するような瞳を向けられて私は胸がいっぱいになる。

　今すぐに、「私は悠希さんが大好き」そう声を大にして伝えたい。
　でも、それはただ彼の負担になるだけだ。今は私とお腹の子を認めてくれただけで幸せだ。
「はい、よろしくお願いします」
　私の答えを確認すると、悠希さんは小さく頷いて病室から出ていった。

「パパがちびちゃんのこと、守ってくれるって。よかったね」
　そう呟いて自分でも理由がわからない涙が零れ落ちた。
< 215 / 331 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop